くちびるに歌を

くちびるに歌を

散らぬ牡丹の一つでいい。君の胸を打て。

首切り王子と愚かな女(WOWOW)の感想。終わりゆく王国と人生の最果て。

本当にやっと首切り王子と愚かな女を観れまた。
親の顔ほど見たテイストの話だった…………
私、幼少期の頃から主に読んでいた小説ジャンルがヨーロッパの架空の王国が舞台のファンタジー(ミステリ)だったので、首切り王子完全に一致でした。ファンタジックで俗的で現代的。まさに、大人のためのおとぎ話でしたね。

 

大好きだったポイントを3つ。

・OP
OPの出方で100点をたたき出しました。芳雄さんの繊細で綺麗な声とヴァイオリンと照明。全てが綺麗すぎる。

・台詞のリフレイン
同じ台詞が違う場面や違う人物によって繰り返されることが、本当に好きでした。
例えば、
トルが幽閉されていた1度目の台詞、召使いが死んでからの2度目の台詞。
妹リビが死のうとしていた場面の台詞と、姉が死のうとしていた場面の台詞。
終盤のリビの台詞とトルの台詞。
ミュージカルにもよく使われていますが、リフレインって引用であり対比であると私は感じています。リフレインによって現れる対比構造が鮮やかで美しかった。

・世界観
この舞台を見始めた時の第一印象が「死に包囲されてる生」だったんです。召使いの首をも切る首切り王子。母を失った愚かな女。滅びていく王国。
あの王国の宮殿の周りは絶望に溢れていて、死に完全に包囲されている。そして、どんどん死に押し込まれて生の範囲が狭くなってきている。どこかに逃げてしまいたいのにどこにも行けない。あぁ、もうこの世界はどんずまりなんだな。元々先はない。そういう諦めが漂っているように思えたんです。
そして、もしかしたらこの世界観はトルの人生にも一致してるんじゃないだろうか……

 

登場人物別感想です

リビ
主人公が狡猾で目ざといところがこの物語の味であり、醍醐味であると思いました。
「ダサいな」などなどのツッコミで場をほぐして、なんだかこの話を身近なものに変えていました。そしてその現実的なツッコミがファンタジックな話とアンバランスにならないのが凄い。
この物語の中でリビも自分の人生を救済したかった1人なんだと思いました。トルとおんなじだ。
リビがどうかトルの代わりに世界を見届けられますようにと願ってしまいます。

 

トル
トルは産まれた時から祝福されなかった子でした。だから、彼の子供っぽさは失われた子供時代を取り戻そうとしてるゆえなのかもしれない。彼は、ひとりぼっち。どんずまり。王国と同じように彼にも先が無いんです。
そして、何よりも芳雄さんの演技力が大爆発しているように感じました。泣きそうな「呪い?」って声や「そしてそれだけが余の全てになった」の目の真っ黒さ。そう、その芳雄さんが私は見たかったんですよ!!!!!!!!
M!から入った身だから、若くて素直で真っ直ぐで向こう見ずで不遇で不幸で無力な、キラキラした王子様オーラを放ちながら地獄を突っ走る若者である芳雄さんの演技がめちゃくちゃ好きなんですよね…………
リビもトルも2人とも同じ色なんだな……2人とも救われたかったんだな……ってそう思わずにいられません。救われて欲しかった……

 

ロキ
めちゃくちゃ良いキャラだなと思って好いてました。自分がなくて、地に足ついてなくてふわふわしてる。全てをなあなあにして、場に流される。でも彼の優しさとか暖かさは、周りを温かくはしてるんですよ。
後半…………

 

女王
女王と母の両立と混沌が感じられて本当に好きでした。影踏みするところとか飴を上げたいところとかは母の顔、でもトルを器にしようとしていた手段を選ばないところとかは女王の顔、その境界がはっきり別れているのではなく同居してるところが魅力的でした。


今更ながら見た「首切り王子と愚かな女」、私が見たい井上芳雄2021~2022のグランプリをとってしまいました。おめでとうございます。
ラグタイムも期待しています。